心の虎の巻について

 みなさんは虎の巻というとどんなものを想像されるでしょうか?虎の巻の意味を辞書で引くと、「秘訣などを記してあるもの。」というように書いてあります。野球が上達するための虎の巻だったり、短期間の勉強で試験に合格するための虎の巻、のように使うと思います。そういった虎の巻というのは、それを必要とする人にとってはなくてはならないとても価値のあるものでしょうし、誰かが長い年月にわたる経験を通して作ることができた大切な知恵の集合なのかもしれません。

 人は誰でもそうした虎の巻を持っているのだと思います。しかもそれは目に見えるようなものとしてではなく、心の中にあるものなのです。それは、自分がどのように生きていくべきかという秘訣がぎっしりつまっている心の虎の巻なのです。そして、人は日々の生活の中で事あるごとに何万、何十万回もその虎の巻を参照しながら生きているのです。しかし、そのことは、ほとんどが無意識的になされているために、通常我々は気づくことができません。心の虎の巻に書かれている内容がその人ごとに違っているために、人によって物事の考え方や行動の仕方などが違ってくるとも言えるのです。

 なぜ一人ひとり心の虎の巻の内容が違うのかというと、それは作られる環境や本人の気質の違いがあるからです。心の虎の巻の根幹にかかわる重要な部分は、本人が幼い頃にその親などの周囲の大人によって作られてしまいます。つまり、親自身が持っている心の虎の巻の内容の重要な部分が複製されて、子どもの虎の巻が作られるのです。勿論この作業は毎日の親子関係によってひとりでになされていくのです。そしてそれは子どもの心が発達して明確な自我が確立されるまで続くのです。その後、子どもが自立していくにつれて、子ども自身がその虎の巻に更に独自の内容を書き込んでいきます。そうやって、大人になるころまでには、立派な虎の巻が出来上がるのです。

 その虎の巻にはどんなことが書かれているでしょうか?例えば、
−親の言うことを聞くべし
−目上の人を敬うべし
−約束は守るべし
−人に迷惑はかけないこと
−働くべし
−弱い者を助けるべし
など、いろいろ浮かんでくるかもしれません。ここではとても大雑把な書き方をしましたが、本当の虎の巻にはかなり細かな部分にいたるまでの記述がなされているはずです。

 ところで、私たちの心の中にあって、一人ひとりの生き方の秘訣が記されている虎の巻のメインテーマは一体何でしょうか?私たちはその虎の巻の内容を無意識に活用して生きているのですから、中心となるテーマ、その秘訣が目指すものが何なのか知らないというのでは自分の人生に責任を持つこともできなくなってしまいます。もし今の自分の人生が、満足のいくものではないと感じているのでしたら、自分の虎の巻の内容に問題があるかもしれないということを疑ってみる必要がありそうです。

 実は多くの人の心にある虎の巻のメインテーマは、突き詰めると「安全・安心を求める秘訣」なのです。つまり危険や危機的状態からの回避、怖れの感情からの逃避なのです。死なずに出来る限り安心して生きていくためのレシピが書いてあるということなのです。上の例でいえば、親の言うことを聞いておく方が親に怒られずに安全なのです。約束を守って、人に迷惑をかけない方が、人からの評価がいいので嫌われずに済むことでやはり安心なのです。働いてお金を稼ぐことで毎日の生活を保障できるので安心できるのです。

 大切な幼少期に親との関係に問題があると、子どもは毎日を危険な状態で生きていかねばなりません。それは例えて言うと、戦時中や戦国時代に生きているのと似ています。自分一人ではまったくもって生きていくことができない絶望的な弱者である子どもが、唯一依存できる相手である親との関係に問題があれば、それは当然今日は生きていられたけど明日はどうやったら生きていけるか分からないという状態なのです。だからこそ、虎の巻の中心的なテーマはいかに死なずに生き延びるかということになってしまうのです。

 戦時中や戦国時代であれば、確かに今日家族全員が無事生き延びることができてよかった、ということで一日が終わるのです。明日の食べ物が確保できたらそれで満足できるのです。その場合には、安全・安心を得て生き延びるための虎の巻があればよかったのです。しかし、現代に生きている大人になった我々は、明日死ぬかもしれないという危険の中で生きている人は、少なくとも今の日本の中では通常いないはずです。それにも係わらず、持っている虎の巻は危険回避の秘訣ばかりが書いてあるのです。私たちが今本当に必要としている心の虎の巻のテーマは何でしょうか?それは勿論、「幸せになるための秘訣」が書いてある虎の巻に違いありません。

 安全・安心を得るための虎の巻に書いてある通りに生きて、その先に幸せが待っていると思うのでしたら、それは明らかに間違いです。逆に幸せとは縁遠くなると思って間違いありません。なぜなら、以前のコラムにも書いた、怖れの回避を毎日続けて生きていくことになるからです。逆に、幸せになるためには、自分が幸せになるための明確なビジョンがなければならないのです。結局、幸せになるための秘訣が満載されてる心の虎の巻を作っていかなければならないということです。

 心の奥底に書かれてしまった安全・安心を得るための虎の巻を使わないようにすることは簡単なことではありません。なぜなら、使わないで生きることは危険や不安を生む方向だと深層心理が思っているからです。しかし、勇気を出して自分の日々の行動をチェックして、できるところから少しずつでも幸せになるための虎の巻を書いていくのです。そして、なるべく新しい虎の巻に則って生きるように心がけることです。どんなことを書いていけばいいのかは、本人が決める必要があります。なぜならその人の幸せはその人にしか分からないものだからです。しかし、コラムにずっと書いてきている内容はもしかしたら、そのヒントにはなるかもしれません。出来る限り多くの人が自分の手で自分を幸せにする立派な心の虎の巻を作って、是非とも満ち足りた気持ちのいい人生にしていっていただきたいものです。



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