人と人が一緒にいて、ひどく拒絶し合わない限りは、それがどんな状況であっても、一つの人間関係であることは間違いありません。それが家族同士であっても、職場の仲間であっても、学校の友達でも。
クライアントさんとセラピストの関係というのも限定的ではあるけれど、人と人がある種の本音で繋がる経験をするのですから、それも立派な人間関係が構築されるわけです。
けれども、かなり特殊な関係性が出来上がってしまうのも事実です。なぜなら、クライアントさんは一方的に自分の心の内奥をさらけ出し、普段よりも無防備な状態になるからです。
人は防衛が減ると、あっという間にその分だけ恐怖が減少するので、恐怖に代わって愛が表面に現れるのです。つまり、心をオープンにした分、目の前にいるセラピストを信頼するのです。
そうしたことは、セラピストとしてはセッションを効果的にするためには願ってもないことです。けれども、その愛が、クライアントさんの依存心や大人の恋愛感情と重なると、厄介なことが起こってきます。
それがよく言われる、「転移」というものです。個人的にはあまり好きな言葉ではありませんが、転移は思っている以上に多発します。
クライアントさんは、自覚のないままにセラピストの全人格の一部を切り取って、自分の理想の相手として見るようにさえなることもあるのです。
純粋な愛のままでいるということは、ほとんどないに等しいでしょうね。そうなると、それは裏返ってセッションの邪魔をするようにもなってしまうのです。
なぜなら、クライアントさんは癒し目的だと思っていながら、気づかぬうちにセラピストに会うことが目的でセッションに来るようになるからです。
その場合には、セラピスト側からセッションをお断りすることもやむを得ないのです。転移の影響が去って、それでもまだセッションを受ける気持ちがあれば、その時はさらにすばらしい癒しのセッションができるのでしょうね。