マザー・テレサの残した言葉に次のようなものがあります。
「ひとりの人間が出会う最大の苦悩は、見捨てられていると感じることにある」というものです。この見捨てられているという苦悩の元は、実は誰でもが心の奥に隠し持っています。
ただ、それを自覚している人とそうでない人がいるのです。その違いは人生の初めの頃の生育環境の差によって起こってくるものなのです。
親に愛されていない、あるいは親の興味が自分以外のところへ向いてしまっている、というような感覚を持ってしまうと、子供はいつか自分は見捨てられてしまうかもしれないという恐怖を持ってしまいます。
そして、その見捨てられるということが確信になったとしたら、それが最大の苦悩だと言っているのです。
そうなると、人生の目標は何とかして見捨てられないように頑張るというところに焦点を合わせることになります。
見捨てられることから自分を救うことだけを考えて生活するようになってしまいます。そのためには、どんな自己犠牲もいとわないという生き方になってしまうのです。
それがまた、第二の苦悩を引き起こしてしまうのですが、本人はそんなことを心配するような余裕がないために、気付かずに自己犠牲を繰り返して生きていくことになります。
それは周りの人からそっぽを向かれることがないように、いい人になろうとしたり、誰からも賞賛されるような結果を残そうとしたり、そういうことに全力を尽くすのです。
それが成功しているうちはまだいいのですが、失敗してしまうとひどい不安感にさいなまれてしまいます。そして、仮に成功したとしても自己犠牲だけが蓄積されていきます。
その自己犠牲とは、自分の本当の気持ちや興味などを抑圧して、人の評価ばかりを気にする生活パターンに陥ってしまうことで、自分が何者なのかという感覚が希薄になってしまうのです。
自分がこうしないと絶対に見捨てられてしまうというありもしない錯覚を持ち続けている限り、自分の人生を生きることができなくなってしまいます。
それはビクビクしながら、一時の安心ばかりを求める愛のない人生になってしまいます。本当の自分は与えることのできる愛のかたまりなのだと気付くことが必要なのです。