本能的自己防衛と心理的自己防衛

人間である私たちは、他のすべての動物と同じように生物としての防衛本能を備えています。そうでなければ、種の保存が成立しないからですね。

それは、熱いものに触れたら反射的に手を引っ込める動作をしたり、苦い味のする食べ物を吐き出そうとするといった原始的なものです。

つまりそれは、生命を維持するために必要となる反応を司る部分と言えます。この自己防衛には元々思考は使われないので、赤ちゃんがゴキブリを怖がることはないのです。

ところが、成長段階のある時期から人間だけが、心理的な自己防衛をするようにもなるのです。その正体が自我(もしくはエゴ)と言われる自意識です。

それは思考と密接に結びついているので、たとえば親がゴキブリを極端に怖がる姿を見るうちに、そこに思考が介入することでゴキブリは危険と決め付けるようになるのです。

そうやって、生後自分を守るためのルールをせっせと作り続け、私たちは他の動物とはまったく異なる防衛システムの中で生活するようになるのです。

それ以降は、本能的防衛と心理的防衛の両方を使いながら人生を生きていくことになるのですが、普段の生活の中で、不安や恐怖が大きければ、それだけ心理的防衛の方を優先して使うようになってしまいます。

その両者のバランスがあまりにも崩れてくると、精神的な苦しみがその分だけ大きくなって行ってしまうことになるのです。

そして、あまりにも心理的防衛にばかり依存した生活が続くと、今度は突然本能的防衛が優先されて、一時的にそれまでの生き方に待ったをかけられることになるのですが、その状態のことを鬱症状と呼びます。

鬱は病気と言われていますが、心理的なメカニズムが分かってしまえば、当たり前のことが起きているということに気づくことができますね。