真実の師

数年前にある本を読んでいて、突然泣き出したことがありました。その時には、自分でもびっくりしたのですが、それはある師と弟子のエピソードについて読んだ時でした。

その師が弟子に向かって、家族のもとへ戻りなさいとたしなめていて、弟子は師の元を決して去りたくないと訴えているシーンでした。

師は、弟子に向かって、「お前が家族のもとへ帰ったとしても、いつも私はお前と共にいる。」と言ったのです。その言葉で、弟子は師のもとを去る決心をするのでした。今でも、ちょっと泣きそうになります。

私はその弟子の方に感情移入したのでしょうね。自分の人生を預けるほどの師がそばにいてくれたら、どんなにすばらしいだろうという思いから、その弟子の方に羨望と嫉妬をしたのです。

その時初めて、自分は師を求めているのだと気づいたのです。自分は、そういうキャラクターではないし、誰のことも尊敬したこともないという自覚があったので、本当に驚きました。

そして、実は今でも心のどこかで命を放り出してもいいと思える師に出会いたいと熱望しているところがあるのですが、残念ながら今回の人生ではそのようなことにはなりそうもありません。

それで最近またふと、思い出したことがあるのですが、頭の理解のレベルでは、師が実在の人物である必要はない、本当の師は自分の奥に潜んでいるのだからとして、割り切っていたのです。

けれども、そのことが単なる理解ではなくて、急に腹の底に落ちた瞬間があったのです。ああそうだ、完璧な師、どこまでも信頼できる本当の師が待っていてくれる。

自分が自分の最奥へと進む冒険の旅を続けていけば、いつか必ずそこで待っていてくれる。勿論師と出会って対面するということは不可能なことです。

その時には、それまで冒険をしてきたこの自分は、師の中へと溶けていくはずだからです。生きながら死ぬということになるからです。

自分が永遠の眠りについたとき、もう決して邪魔されることのない真の寛ぎを手にしたときには、その師こそが真実の自己であったと気づくはずなのですね。