原体験

以前コラムの中で書いたことがあったと思うのですが、人間を人間たらしめている脳である前頭前野という部分は、他の脳の部分と違ってわずか3年で9割がた発達を終えてしまうということです。

つまり、人間は3歳にしてほとんど人間としての脳を獲得してしまうのです。ただ、経験が少ないために大人のようには生きることはできませんが、感性や人の気持ちを汲み取るなどの情緒的な部分はほとんど出来上がってしまうということですね。

そしてその頃にとても惨めな辛い体験をするのです。それまでにも経験してる可能性はあるのですが、脳の発達がまだ未成熟であったため、その体験を本当に惨めなものとして受け止めることができなかっただけです。

3歳くらいのこの惨めな初めての体験は、心の奥にしっかりと残ります。ただ、その時には自覚としてはまだ反応ができずに、ぼんやりとした経験をするに過ぎないのですが、心の奥では辛い体験として刻印されます。

その後、この惨め体験に対して、抗議したいという自分が出てきます。これは意識できるようなレベルではないために、本人としては自覚することはできないでしょう。それでも、その抗議したい意識は非常に強力なので、その抗議活動をその後の人生で何度も何度も繰り返していくことになるのです。

方法は簡単です。例の投影を使うのです。自分が体験してしまった、あの惨めな思い、激しい怒り、そういったものをまた自分が体験できるように仕向けるのです。投影によって、まさにそういう状況を作り出してしまうということですね。

同じように惨めで腹立たしい状況になることによって、またいつでも抗議活動ができるように仕向けるのです。自分が幸せな人生になってしまったら、もう二度と抗議できないわけですから、この抗議活動が可能な自分という状態をずっと持ち続けたいわけです。

本人にはそういった自覚は全くないですから、ただ非常にいやな体験をなぜか繰り返してしまうという人生になってしまうのです。勿論ネタは様々です。原体験の相手は通常親ですが、その後の人生では友人や先輩、職場の上司、恋人など、あらゆる相手を投影として利用します。

なぜだかは分からないが、繰り返されてしまう腹立たしい、惨めな体験を打ち止めにしたければ、その最初の体験(原体験)の時の自分を思い出して、その時の本当の気持ちを受け止めてあげることが大切です。

つづく