恐怖より悦びの方が勝る

若いころ、といっても結婚もして小さな子供もいたと思うのですが、パラグライダーというのをやりに遠く長野県の菅平高原まで行ったりしていたことがあります。

パラグライダーというのは、みなさんもよくご存じのパラシュートを開いた状態にして、山の急斜面から飛び降りて、そのまましばらくの間、空中遊泳して楽しむ遊びです。

その頃は、日本ではまだ始まったばかりだったせいか、やれる場所も限られていて、東京からわざわざ菅平まで行かなければなりませんでした。

人に教えられるような人もほとんどいなかったので、いい加減な講師が適当に教えて、いきなり一人で飛び立つという感じでした。今ではちょっと考えられませんが…。

そのせいもあって、私は着地するときに大腿骨を骨折したやつを目の前で目撃しましたし、強風にあおられて両肩を一瞬で脱臼した若い女の子も見ました。

私自身も、いい風がやってくるのを待てなくて、適当にジャンプしたときにちょうど追い風にあおられて斜面を転がってしまい、死ぬかと思ったこともありました。

そういう意味ではかなり無謀というか、勇気のいるスポーツでしたが、好奇心が恐怖に勝つというのか、ジャンプしてグワ~ンと風に持ち上げられるあの感覚をまた経験したくて、やりにいってしまうのです。

恐怖というのは、打ち勝とうとしてもなかなか勝てるものではありませんが、好奇心というか単純にやってみたいという無邪気な心があれば、乗り越えられるものなのですね。

もっと正確にいうと、乗り越えているわけでもなく、ただその瞬間恐怖以外の何かに包まれてしまうという感じかもしれません。

カートを少しやっていたこともあるのですが、時速100kmくらいでコーナーを回るとき、あの小さなボディの中にいるのもしんどいくらい遠心力で身体が持っていかれるのですが、その瞬間も恐怖はどこかへ消えてしまうのです。

友達がそのコーナーを高速で走り抜けるのをまじかで見ていると、とてもじゃないけど怖くて目を背けたくなるのですが、自分が走っているときには何だかまったく違う感覚になれるのです。

恐怖を乗り越える必要はありません。恐怖と悦びでは、間違いなく悦びのほうが勝るのですから、悦びに意識が向いていればそれだけでいいということですね。