向上心

私たちは、向上心があるおかげで昨日よりも今日、今日よりも明日という具合に常に前へ進んで行こうとします。そして、年齢を重ねるごとに心身ともに成熟して立派な大人へと成長していきます。

ですから、この向上心というのは自分を進化させる原動力とも言えるわけです。ところが、よくよくこの向上心が何から出来ているのかを調べてみると、ベースとなるものは愛か、もしくは恐れであることが分かります。

愛の場合には、例えばもっと自由にピアノを弾いてみたいというシンプルな理由でピアノを練習するといったような向上心となります。

一方、恐れの場合には、もっと上達しなければライバルに負けてしまうし、親をがっかりさせてしまうし、先生に怒られたくない、などのような理由で練習することになります。

恐れをベースとした向上心の場合に特徴的なのは、今の自分を否定しているということです。自己嫌悪や自己否定によって、このダメな状態から脱却したいという向上心であるわけです。

これがひどくなると、とても向上心とは呼べないくらい深刻な気持ちになっていたり、今の自分ではダメだと悩んでしまうことになります。

理想的な自分像というものをいつもどこかに掲げておいて、その理想像と自分の現実を比較してその落差に落ち込んでしまうのです。

それでも本人はあきらめることなく、あくまでもその理想像を追い求めることを続けてしまうのです。ですから、いつまでたっても、満足するということがありません。

負けず嫌いの人にも、このような傾向があるかもしれません。その場合には、ターゲットが理想の自分像ではなくて、ライバルである場合が多いのです。

こういった場合には、確かに頑張ってなんとか今よりも向上しようとしますので、この社会でそれなりに認められるようになる可能性は高くなります。

しかし、人に認められるということは瞬間的なことであって、すぐにまた今のままでは自分はダメだというところに戻ってしまい、またあくなき理想の追求が始まってしまいます。

今の自分のままではダメだ、自分は頑張ればもっと出来るはずだ、というこの二つの思いを手放すことができないと人生の平安は決してやってこないのです。

つづく