原因と結果

 数日に渡るあるセミナーに参加している時、二日目の朝目が覚めてふと時計を見ると、ちょうどセミナーが始まる時間でした。結局、セミナー会場には1時間半以上も遅刻して到着したため、午前中の内容はほとんど聞くことができずに終わりました。ひどい寝坊をしたものです。自分で記憶している限りでは、これほどの大きな遅刻は初めてでした。

 この場合に、寝坊をして遅刻したことが原因となって、午前中のセミナー内容を聞くことができなかったのがその結果であると通常は考えます。表面意識では遅刻したいと思ってるわけではないので、この原因と結果の関係は正しいと感じます。しかし、私の潜在意識、あるいは無意識が午前中のセミナーに出たくないと思っているとすると、この原因と結果の関係は逆転します。

 つまり、セミナーに出たくないという隠れた思いが原因となって、その結果として寝坊して遅刻するという現実を引き起こしたと考えられるのです。子供が朝お腹が痛くなって、結果として学校をお休みするという場合にも、その子供の隠された心に学校に行きたくないという欲求がある場合、学校を休みたいが原因となって、その結果として腹痛を起こすということです。

 このように、常に人の心の奥にある抑圧された思いにフォーカスを当てて物事をみることで、表面的な原因と結果の関係が逆転してしまうのです。私の遅刻や子供の腹痛の例の場合には、どちらも自分の中で起きていることなので、比較的理解しやすいかもしれませんが、それが他人を巻き込むような場合でも実は成り立つのです。

 例えば、職場の上司はどういうわけか、自分のことを不当に扱い、理不尽なことをされていつも腹立たしい思いをしているとします。この場合、原因は上司の不当な態度であり、結果は腹立たしい思いをすることです。しかし、自分の心の奥の隠された部分に目を向けてみると、そこには怒りが溜まっていてそれを吐き出したいのかもしれません。

 その場合には、腹を立てたいが原因であり、上司の不当な態度が結果となるのです。つまり、心の奥底に隠された様々な感情や想いが原因となって、自分の周りに様々な現象が結果として起きてくるということなのです。そしてこのことは、身の周りに起こるどんなことにも例外なく当てはまると考えて間違いないのです。

 友達に裏切られたことも、先輩に虐められたことも、家族にダメ出しや否定されたことも、彼氏に捨てられたことも、それらはすべては原因のように見えて実は結果なのです。原因は自分の心の奥に抑圧された感情や想いなのです。自分の外側で起きていることと、自分の心の内側とに因果関係があると思うことは、最初のうちは無理があるかもしれません。

 しかし、このことを本当に理解することができると、被害者であることから完全に開放される人生が待っています。なぜなら、私たちは通常周りで起こるいやな出来事が原因で、その結果自分は惨めな想いや辛い状態にさせられた被害者だと思っているのですが、原因と結果を逆転させて考える事ができる人は、人を加害者にすることがなくなるのです。それと同時に自分も被害者ではなくなるのです。

 勿論、被害に遭ったという事実はありますが、被害を被ることと被害者になることとは同じではないのです。自分には何の非もない状態で、クルマをぶつけられたとしたら、物理的には被害に遭ったと言えるのですが、その時自分は被害者だと思うかどうかはあなたの心のあり方で決まるのです。クルマをぶつけられて傷をつけられたことが結果だと認識できる人は、その時被害者にならずに済ませられるのです。

 以前のコラム『人生は自作自演』でも同じことを書きましたが、この事は何度繰り返しても足りないくらい大切なことなのです。この認識がいつどんな場合でも使えるようになったら、人生は激変するはずです。それは、人生のどの場面においても、自分は被害者ではないとはっきり自覚できるようになるからなのです。

 被害者でなくなった人は、他人を責めることをやめてしまいます。なぜなら被害者ではない自分の周りにはもはや加害者もいないからです。加害者でなくなった他人に対して、人は愛を持って接することができるようになるのです。それは、批判や否定、裁くことなどがなくなったとても平和な心で人と接することができるようになるということです。それだけで人生はとても気持ちのいいものに変化するでしょう。

 逆に常に自分は被害者なのだという認識で人生を送ってしまうと、恐怖や憎悪などの感情をベースとした人間関係を作ることになってしまいます。文句や愚痴が多くなり、人を赦すことができなくなって恨みやつらみ、仕返しなどを繰り返す苦悩に満ちた人生が待っていることになってしまうのです。

 私たちの心の奥に潜む抑圧された感情や想いというのは、例えて言えば映画館の映写機のような役割をしていると言えます。私たちはスクリーン上に映写されている像という結果を見ているのですが、それと全く同じようにして自分の心の奥に隠された秘密の映写機が映し出す像を、周囲に起こる現実として体験しているのです。

 病気になったらどうしようと強く不安に思っている人は、その想いが投影された結果として病気になるという現実が起きるのです。文句を言いたくて仕方ないという本音を隠し持っている人は、その想いが投影された結果として文句をいいたくなるような現実を周囲に作り出してしまうのです。お店の店員さんの態度に憤慨している人は、心の奥底にある怒りを投影する結果として、態度の悪い店員さんを出現させてしまうのです。

 このようにして、起きている事柄はすべて投影された像としての結果でしかないのです。その原因となるものは、心の奥に抑圧された想いや感情なのです。あなたがこのメカニズムを否定せずに深く認めることで、自分を被害者の立場から脱出させてあげることができるのです。それによって、他人を加害者としてみることがなくなり、心の奥の感情が少しずつ緩和されて穏やかなものになってきます。

 そうすると、その変化が投影されたものが像として周囲の現実に反映されるため、徐々にいやな出来事が起こらなくなってくるのです。そうなると、益々自分の毎日が快適になっていくために心の奥のわだかまりが消えうせて、その投影としての現実がよりすばらしいものに変化していくというプラスのループに入っていくことになるのです。