高校一年生くらいの頃ですから、恐ろしいことにもう40年も前に見た映画のことですが、とても心に残っているシーンがあるのでご紹介します。
その映画は、ヨーロッパの国のどこかでかつて、狼によって育てられた男の子が森で見つかり、ある研究者のところに預けられて人間としての教育を受けるという、実話を元に作られたものでした。
その少年は赤ちゃんの頃に森で捨てられ、奇跡的に狼たちによって全くの野生の中で育てられて、10歳くらいまで成長したところを発見されたのでした。
ある学者がそのことを聞きつけて、人としての躾けをするために一緒に生活をしながらも、様々な葛藤を経験するのです。
まず二足歩行を教えるのですが、すぐに慣れた四足で歩こうとしてしまったり、食事をするときに口から直接食べないように教えたり、とにかく身の回りのことの何から何までを教え込もうとして本当に両者が格闘するのです。
その学者は躾をするにあたって、言うことを聞かせるために、その少年がルールを守らないときには罰を与えることを思いつきます。
ただそれがどの程度の効果があるのか、よく分からないのです。その時に、その少年が人間が誰しも持っている罪の意識というものがあるのかどうかを確かめようとします。
その方法とは、少年がルールを破っていないにもかかわらず、狭い部屋に閉じ込めてしまうといういつもの罰を与えてみるのです。
これがものすごく心が痛むシーンなのです。学者も心を鬼にして挑むのですが、少年はルールを破ってないにもかかわらず罰を与えられたことに怒りを感じて、いつまでも閉じ込められた部屋の中から扉を叩き続けるのです。
ルールを破ったときには、その部屋に押し込まれても黙っていた彼が、自分は何も悪いことをしてないのにという必死の抗議行動をしたわけです。
この少年の怒りが、充分に彼には罪の意識というものがあるという証拠だと分かったときに、その部屋から出してあげて、思いきり抱きしめてあげて何度も謝るのです。
狼が罪悪感を持っているのかどうか分かりませんが、その少年は野生児であるにもかかわらず、人と全く同じ罪の意識を持っていたということです。
私達の苦悩の根源は、すべてこの罪の意識、罪悪感にあるのですが、それはもうすでに生まれたときから備わっている根深いものだということが分かりますね。