体験と体験者というのは、明らかに両者に違いがありますね。ところが、私たちは日頃この二つをしっかり分けて考えているわけではないのです。
その理由とは、体験とは体験者がいなければ成立しないと勝手に思い込んでいるからなのです。
体験者なしに体験はあり得ないと信じ込んでいるということ。これはあまりにも自我の影響が大きいために起きることです。
特殊な事例でこのことを見てみたいと思います。かつて狼に育てられた少年が発見されて、人間に育てられるようになったことがありました。
少年には我々のような自我は全くありませんでした。それは当然のこと、彼を育んでくれた狼には自我がなかったからです。
自我に育てられなければ自我は育たないのです。彼の中に自我がなかったからといって、人間に発見されたという体験がなかったわけではありません。
人間以外の動物にも言えることですが、自我がなくても記憶というのはあるのです。その記憶の中には、人間に発見された事実も含まれていたはずです。
つまり体験というのは、体験者の存在とは全く異なる現象だということです。そして体験者というのは、自我という思考によって作られたものなのです。
この世界に存在できるのは、体験者ではなく、ただの体験なのです。今日から、これは自分の体験だと思わずに、この体験がただ在るだけだと見るようにできるといいですね。