もう亡くなられたと思うのですが、「いずみたく」さんという著名な作曲家の方がいらしたのですが、ご存知ですか? その方があるFMのラジオ番組をやられていたことがあったのです。
確か私が大学生のころだったと思うので、もうはるか昔のことですね。その番組で彼が何をお話しされていたのかは全く覚えていないのですが、一つ特徴的なことがあったのです。
それは、彼の個人的な部屋かスタジオで収録しているのだと思うのですが、日常的な生活音がいつも聴こえてくるのです。例えば、タバコに火をつけるときのライターの音だったり。
コーヒーを沸かして飲む音だったりが、ごく自然な感じで聞こえてくるのです。その音たちがなぜかものすごく魅力的だったのです。FM放送だったので音質がよかったというのも事実としてあるでしょう。
けれども、日常的な生活音がなぜそこまで人を感動させるのか、その理由が分かりませんでした。そして自分でも実際にいろいろな音を出して、それを録音して聞いてみたりもしたのです。
今でしたら、スマホであれその他の録音機であれいくらでもあって、手軽に録音できますが、かつては部屋の中の生活音を録音するのに、わざわざ大きめのマイクを買ったのを覚えています。
そして分かったこと、番組ほどではないにせよ、自分で録音した生活音でもそこにじっと耳を傾けているだけで、いつもとは違って聞こえるのです。その理由の一つは、マイクが人間の耳とは違ってあるがままの音を取り込めるということ。
私たちの耳は、聞こうとしている音を増幅して、聞こうとしない音は小さくしてしまうという特性を持っているのです。正確には耳自体がそれをするのではなくて、それはマインドの機能として備わっているのです。
だから録音された音というのは、いつもとは違って聞こえてくるのです。そしてもう一つ、魅力的に聴こえる理由があるのですが、それはいつもよりも何倍も注意深く聴くからだったのです。
私はあの時実際ヘッドフォンで聴いていたので、ものすごく音に意識を研ぎ澄ましていたのだと思います。毎日何気なく聴いているあらゆる音も、気づきを持って聴けば、全く違ったように聴こえてくるのですね。
意識的であれば、聴こえてくる音も、見える対象物も、すべてがきっとより魅力的に感じるはずなのです。そうなったら当たり前が当たり前でなくなるのでしょうね。