知覚のうそ

子供の頃のことですが、仰向けになっている母親の顔を頭の方から覗き込んでいるときに、とても怖くなったことがありました。

普段見慣れている顔を上下ひっくり返しに見たわけですが、つまりアゴが上で頭が下にあるように見ていたら急に得体の知れない生き物を見ているような感じがしたのです。

まるで宇宙人の顔でも見ているような、そんな気持ちになりました。それは実は、私たちの知覚というのは自分の知っているパターンの中に収めるように自動的にするからです。

人の顔のパターンが常に作られていて、それとの比較によって人間かどうかを判断するという知覚の仕方をしているのです。

そのパターンから逸脱した顔を見てしまったために、今までに見たこともないような顔を見たように感じてしまったわけです。

それだけ、私たちの知覚というものは自分のいいようにカテゴライズしてしまっているということです。あるがままを見ているつもりになってはいても、全くそうではないということですね。

このことをよく味わってみると、何の気なしに見ている外側の世界というのも、自分がこしらえたパターンに沿うように勝手に作り変えて見ているということになります。

ただただあるがままを何の解釈もせずに見ることができたとしたら、一体どんな世界なのでしょうか。とても興味をそそられます。

そしてそれは、自分自身についても言えることです。私たちは、自分の身体というものをいくつかのパターンを含んだイメージとして作り上げています。

だからこそ、右耳と左耳を同時に触って、両者の間がどのくらい離れているかを感じたときに、15cm程度とすぐに答えが出てくるのです。

それは自分の頭の形とそこについている耳というイメージを元にして作られた虚像なのです。本当は、右耳と左耳の間の距離など決して分かるはずがありません。

そんな情報を知覚としては持ってはいないからです。それを解決するのが、パターンからできているイメージなんです。

さあ、本当のあなたの姿とは一体どういうものなのか、興味深いとは思いませんか?あるいは、やや怖くも感じるかもしれません。

でも本当の本当のあなたは、形や大きさや色やその他説明できるようなどんな特徴も持っていない全くの無だということです。それが真の自己です。
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