今この瞬間というのは、誰にでもいつでもどこでも原理的には感じることができるものです。それなのに、今この瞬間のことを私たちは大抵は忘れてしまっています。
忘れておいて何をしているかと言えば、何か別のことを思い巡らしていたりするわけです。昨日誰かに言われた一言だったり、明日の仕事の段取りだったり。
そんなことばかりの連続で、その日一日がただただ過ぎ去っていくのですね。でも待ってください。私たちはいつでも立ち止まることができるはずです。
街を歩いていても、何をしていても立ち止まることは可能です。そして自分についての今この瞬間という感覚を思い出すことができます。
できるだけしっかりと、自分の心を立ち止まらせて、今この瞬間を見るのです。そうすると、徐々にかもしれませんが、あると思っていたことが消えていくのを感じます。
例えば、自分が抱えている問題とか悩み事など、あるいは未来への不安や過去への悔やむ思いなど、そうしたものがあるというのが幻想だったと分かります。
今この瞬間には、実際何もありません。今この瞬間には、自分の記憶すら使うことがなくなるために、自分が作り上げてきた自己像すら薄れていきます。
そうすると、自分の身体もなくなり、自分の名前やその他もろもろ、いつも一緒に持っていると思っていたものがどんどん消えていってしまいます。そして自分が傷つくことがないと分かります。
最後には、なにものでもない自分、ただそう気づいている自分だけが残るのです。そこには、時間的な広がりがないだけではなくて、この世界と同化してそれを受け止めている自分だけになるのです。
それこそが本当の自分なのですね。これは堅苦しい瞑想などせずとも、慣れてくればあっという間にやってきてくれます。
そこに残るのは、深い静寂と、なにものでもない、何一つ残っていない完全なる無である自分だけです。