感情は溜まる

10年前に会社を退職して、ヒプノのスクールに通い始めたときに、学んだことの中でとてもインパクトのあるものがありました。

その一つは、感情というのは心の中に溜まっていくものなのだという事です。それまでの人生ではあまり感情について真剣に考えたこともなかったのです。

感情というのは、単にその時々の状況に合わせて心に浮かび上がってくるものであって、その場を過ぎれば消えていってしまうものと漠然と思っていました。

自覚としては、過去に体験したいやな出来事やそのときに感じた様々な感情を、自分がいつまでも心の奥に残して持ち続けているということはありませんでした。

過去のことを思い返したときに出てくる感情がもしあったとしても、それは現在の感情であって過去に感じた感情とは別のものだと思っていたのです。

このように認識している人は多いのではないでしょうか。勿論、今この瞬間に新たに沸き起こってくる感情というものも確かにあります。

しかし、過去の出来事を想起したときに沸き起こってくる感情は、過去に自分が感じて未消化のまま残っていた感情である場合がほとんどなのです。

この気づきはとても新鮮でしたし、ある意味驚きでもありました。感情はしっかり味わって消化しない限り、時間を越えて過去から現在へと生き続けているということです。

このことにはっきりと気づくことができたおかげで、人の心のメカニズムというものに深く係わっていくことができるようになったのかもしれません。

感じなくなることでなくなってしまったと思った感情は、基本的にはみな心の奥に抑圧されてしまわれていただけだったのです。

一般的な事実の記憶と同じようにして、我々はその時々に未消化にした感情を記憶として心の奥にしまってしまうということです。

そうしてしまわれた感情記憶は自分にとって都合の悪いものですから、自分で意識しない限りいつまでも川底のヘドロのように溜まったままになるのです。

そしてそれがある限度を越えたときに、無自覚のうちに表面へ飛び出してくることになります。その時に初めて自分の心には何か得体の知れない感情があるということに気づくのです。

何も特別なことが起きているわけでもないのに、ふと電車の中などで涙が出てきてしまうというようなことになったりします。

あることをきっかけとして、急に怒りっぽくなってしまったとか、今まで寂しさなど感じた事もなかったのに、孤独感を感じてしまうようになるといったことが起こるのです。

誰の心の奥にも未消化なままになっている沢山の感情が溜まっています。それは悪いことでも病んでいるわけでもない、正常なことなのです。

ただ、それがあまりにも限度を越えて溜め込まれた状態であれば、必ずそれがその人の人生の中で大きな影響を持って表面化するようになるということなのです。

感情は見えるものではありませんが、ある種のエネルギーの塊のようにして心のひだの奥深い部分に蓄積され、それがその人の人生をコントロールしているということなのです。