否認

否認とは自己防衛のもっとも基本的な方法です。自分を守るために、自分の心にある自分にとって都合の悪い自分を人は否認します。

否認することを具体的な言葉に置き換えるとすると、「それは自分ではない」ということになります。自分であるものを自分ではないと思い込むのです。

そうすると、当然の結果として自分であり続ける心の部分と、自分ではないと切り離された心の部分とに分裂することになります。

自分にとって都合の悪い自分とは、たとえば罪悪感を感じさせる自分、自己否定や自己嫌悪を思い起こす自分、つまりダメな自分、あるいは情けない自分、惨めな自分、恥ずかしい自分、無価値な自分など、数え上げたらきりがありません。

たとえば、怒りを感じる自分はダメだと思えば、怒りを感じた瞬間に、その怒っている自分は自分ではないとして否認するのです。そうすると、冷静な自分と怒りを持つ自分とに心は分断されます。

一度それに成功してしまうと、毎日の生活において感じるあらゆる怒りは、瞬間的に自分ではないとされる自分の心へと横流しすることになります。

ですから、表面的な自分はいつもおだやかで、心のやさしい自分でいられるわけです。その分、怒りを受け持たされた心の部分は知らず知らずのうちに激しい憎悪の塊と化していきます。

自分は物事に腹を立てているという自覚がないですから、我慢しているということも分からないままに、怒りの感情だけが、自分ではないとされた自分の心の部分に溜められて行ってしまいます。

怒り以外にも、ありとあらゆる不都合な自分は、自分以外の別のものとして分裂した状態で実は自分の心の中に保たれるのです。

俗に言ういい人というのは、多くの場合こういったことを心の中で無意識的に行っている人であると言えるかもしれません。