役割を演じる

人が数人集まると、眼には見えませんがそこには人間関係が生まれます。その人間関係を作り、維持しているのは各人がそれぞれに作り出している役柄なのです。

本人が、意識的であろうと無意識的であろうと、必ず何等かの役を演じているということです。たとえ幼い子供であっても、その子の心に自我が目覚めれば、その家族の中での役割を演じ始めるのです。

敏感で聡明な子供であればあるほど、あるがままの無邪気さをそっちのけにして、役割を担うようになってしまいます。それは、その日をなるべく安心して生き抜くための策なのです。

きっとあなたも経験があると思うのですが、ある人と一緒にいるとどういうわけか聞き役になってしまうけれど、また別の人と一緒のときには気づくと話し手になっていたというようなことです。

互いの関係性の中で、そうした役割分担というものが自動的に発生するのです。そうした役割を総合したものが、その人の人柄、あるいは人格を形成していると言ってもいいくらいです。

学校を卒業して、初めて入った会社の社是には、「…仕事が人を作る…」のような文章があったのを覚えています。これは、例えば医師になった人が何年も経験を積んで、はじめて医師らしい風格というか態度が備わっていくということをイメージすれば分かっていただけるはずです。

その人は、言わば医師の役割を患者に対して上手に演じられるようになったということなのです。子供が産まれてしばらくたつと、大丈夫かなと思っていた人でも立派なお母さんになりますね。

彼女は、お母さんという役割を演じることに上達していったということなのです。だから、役割を演じるということは決して無駄なことでも悪いことでもありません。この社会においては、絶対に必要なことと言ってもいいのです。

けれども、役割を演じることだけが毎日の生活のすべてになってしまうと、それはそれで心の中の無邪気な部分が限界を越えてしまうことになります。

子供にとってのお母さんだって、少しは息抜きが必要なのは言うまでもありません。たまには、ご主人と二人きりでデートすることで、恋人の役割に酔いしれることでストレスが解放されるのです。

幼いときに家族の中で役割を演じすぎると、それ以外の役割を見つけられなくなり、社会に出ても同じような役割ばかりを担うことになる可能性が高くなります。

一つの役割ばかりにせいを出し過ぎると、必ず心が消耗してしまいます。あなたは、いろいろな役割を適度に毎日の生活の中で割り振って生きていますか?

自分が日ごろ、どんな役割を背負って生きているのかを、よくよく見てあげることが大切です。そして役割に気づいた人だけが、その役割から抜けるか役割を小さくしていく選択肢を見つけることができるのです。