催眠にかけられたリンゴ

この仕事を始める一年くらい前に、つまりまだ会社員だったころに何を思い立ったか、とある催眠術師のところに催眠術を習いに行ったことがありました。

単なる興味だったとは思うのですが、予想外に簡単に催眠をかけることができると分かって、嬉しくなっていろいろな人にかけて自分の腕を試したりしていました。

後催眠といって、ある暗示を与えておいて一度催眠を解き、その後施術者の何らかの合図に従った言動をさせてしまうという効果を使って、お遊びとして楽しんでいました。

それがきっかけとなって、催眠療法を仕事にするようになったわけではないのですが、でもどこかで無意識的には繋がっているものがあったのかもしれません。

私自身は今だに催眠状態、つまり変性意識状態について、その実体を詳しく知らないのですが、とにかく一時的にであれ、与えられた暗示を本当に信じ込むことがあるのです。

仮に、丸くて赤くてジューシーでとてもおいしそうなリンゴに催眠をかけて、あなたはゴーヤ(にが瓜とも言いますね)になったと暗示を与えたとします。

すると、リンゴは自分がゴーヤであるということを信じ込むことになります。ゴーヤだと思い込むことになったリンゴは、自分のリンゴとしてのフルーティさやおいしさのことを忘れてしまいます。

そして、本気になってリンゴのようなすばらしい姿と味わいを持つことを望むようになります。ちなみに私はゴーヤが大好きですが、一つの例として読んで下さいね。

ゴーヤになったリンゴは、自分のゴツゴツした姿や苦味を何とかして、美しい丸い姿にしたいと考えるかもしれません。

自分をリンゴのような素敵なフルーツにするために、あらゆる努力をしようとするかもしれません。身体をつるつるにするためにエステに通ったり、香りをよくするために特別なフレグランスを手に入れようとするかもしれません。

どうやってもリンゴのような丸い形にはならないので、本当に絶望してしまうかもしれません。このゴーヤのすべての苦悩の元はたった一つ、自分をゴーヤだと信じてしまったことですね。

リンゴのようになりたいと望むすべての思いを一度やめて、ただゴーヤであることをそのまま見続けるという選択ができることに気づけたら、そのとき催眠が解けるかもしれません。

催眠さえ解けたら、心からの安堵がやってくることは間違いないですね。そして、今までの苦悩のすべては何だったのだろうと笑いだしてしまうかもしれません。

私たちもそのリンゴと同じように、ある暗示を与えられている状態だと思えばいいのです。ここから一歩も動かず、何もしようとせずにただ在ることだけに意識を向けるのです。

そのときにこそ、本当の自分の姿、永遠に安堵することになる本質の自己に気づくことができるということです。