自我と心理的自己防衛

私という人物がここにいるという思いと、自分のことを守りたいという思いとはほとんど一つのものであると考えて差し支えありません。

その二つの思いを切り離して、別々に持ち続けることができないからです。この二つの思いが合わさったものを一般的に自我(エゴ)と呼びます。

人間の成長過程の中の幼少期に、まず初めに「これが自分なんだ」という思いが生まれることになるのです。

ほかの動物と人間との一番の違いはこの点にあります。ほかのいかなる動物も、「自分」という明確な思いを持っていません。

もしかしたら、ボンヤリとしたものを持っている高等動物がいるかもしれないということを否定する必要もありません。本人に聞いて見なければ実際のところはわからないわけですから。

けれども、我々人間のような自我を持っている動物がいないことは明白です。なぜなら、人間のような心理的自己防衛をする動物がいないからです。

生物としての本能的な防衛と人間だけが行う心理的防衛がいかに異なるものかを理解すれば、人間の自我が特別だということがはっきりします。

その心理的自己防衛の真の目的は、本当の自分の姿のことを忘れ、それから遠ざかったままでいるということです。

勿論表立った目的は、人物としての自分の命を守るということに見えるのですが、それは本当の自分を騙し、自我を存続させるために過ぎません。

だからこそ、私たちは本当の自己の姿が常に目の前より近くにあるのに、それを認めようとしないのです。

この自分のことを守りたいという心理的自己防衛が、それ自体のカラクリを本人に隠そうとすることを見れば、それが如何に真理とは正反対のものであるかがわかります。

嘘は嘘でかためておかなければ、すぐにその本性がばれてしまい、あっという間に消えていってしまうからです。

自分という自我も、それを守ろうとする心理的自己防衛もそういうものだということにはっきりと気づくことです。そうすれば、人は苦しみから解放されるのですから。